純米酒しか醸さない戦後初の全量純米蔵
米と米麹と水。それだけでつくられた日本酒を純米酒と呼びます。醸造用アルコールを添加しない、日本の伝統的なお酒のスタイルです。戦中に国策として始められた醸造用アルコールを乱用した酒づくりは、米不足の解消した戦後も脈々と続き、日本酒のあり方を迷走させてきました。そんな時代のなか、1987年に全国で初めて、製造する酒すべてを純米酒のみにした酒蔵が現れます。それが神亀酒造です。
コストのかかる純米酒は敬遠され、販売も当初はうまくいかなかったそうですが、純米酒をつくりたい他の酒蔵への支援にも力を入れ、純米酒の復興に大きな役割を果たしてきました。原材料にこだわる現代の趣向ともマッチして、今では純米酒好きに愛される蔵になっています。
神亀酒造の特徴は、伝統的な製法技術もさるこながら、販売されている純米酒のほとんどが熟成酒であること。通常で2・3年、吟醸酒となると5年以上も寝かせてから販売しています。先代の小川原良征氏が、熟成されることで引き出されるまろやかな旨みに魅了されて始めたそうです。それを引き継ぐのが八代目蔵元の小川原貴夫氏。先代のときから杜氏を務める太田茂典氏と力を合わせ、蔵人とともに自ら酒づくりに打ち込んでいます。
酒づくりの秘訣は麹にあり!
日本酒の良し悪しを左右する一番の要は麹。日本酒を構成する旨みの7割以上は麹の味で決まるそうです。蒸米を広げて種麹を振りかけ、丸めたりほぐしたりしながら、2日間かけてじっくりと米麹に仕上げていきます。
温めて飲むのが酒づくりのコンセプト
ワインブームに牽引されるかのように、香りがよくフレッシュな飲み口が好まれる現代。香味を引き立てすっきりとした味に仕上げやすい、醸造用アルコールを上手に使った本醸造酒も多く見られるようになりました。
そんな香り重視の流れと一線を画すのが、燗酒で飲むことを推奨している神亀酒造。日本酒といえば冷酒で飲むイメージがありますが、じつは成分にコハク酸を多く含み、温めるとおいしくなるのだそうです。麹の旨みがしっかりとした純米酒をつくっているので、味に差の出やすい熱燗でも、表面的ではない奥深い熟成がのどを唸らせてくれます。うなぎなど個性のある料理との相性も抜群です。
❶ 2年熟成の「神亀」と3年熟成の「ひこ孫」はいずれも蔵の看板商品。
❷ 入れた掛米を素早く攪拌させる初添の作業風景。
❸ 酒の神様である松尾様も祀られています。
❹ 仕込みで重要な清掃も毎日しっかりと行われています。
神亀酒造のこだわり拝見!
1.小さな麹蓋
米麹づくりには、一般的に使われている麹箱よりもサイズの小さい、昔ながらの麹蓋を使用。動きの活発な麹菌を操作するには、このサイズが理に適っているのだとか。純米・吟醸のクラスに関係なく使用しています。
2.搾りは佐瀬式
カーテン状にして1日で搾りきる薮田式が主流の現代にあって、神亀酒造では2日間かけて圧搾する佐瀬式を採用。一つ一つ布袋を敷くのも掃除も重労働ですが、微妙な味の加減がしやすく、厚みのある上質な酒粕もとれます。
3.貯蔵
「純米酒は熟成させて、温めて飲んで世界一の醸造酒になる」と小川原さん。若い酒はアルコールが立つので、温めて飲むのには適していないそうです。涼しい蔵や氷温のコンテナで、最低でも2年は寝かせて出荷します。
蔵元 小川原 貴夫さん
八代目蔵元の実家は、東京の吾妻橋にある純米酒専門のニシザワ酒店。取引先だった神亀酒造で酒づくりを学び、2017年に蔵を継いだ異色の経歴の持ち主です。
製造量850石の仕込みをする蔵人がほか9名、出荷担当が5名。純米酒界を牽引していた先代に日本酒のあり方を教わり、次の世代にも伝えていくことを目標としているそうです。
神亀酒造
所在地/埼玉県蓮田市馬込3-74 TEL/048-768-0115